「コラボレーション」という、クラフトビールの世界で脈々と受け継がれてきた文化。その文化に導かれるように、醸造家たちは仲間のもとへと飛んでいく。日本各地へ。ときには、海を越えて遠く離れた異国までも。まるで渡り鳥のように。
ただ、私たちを突き動かしているのは、文化という名の義務ではない。確固たる意志とビールへの熱い情熱だ。そんな想いを胸に、今日も醸造家たちは仲間のもとへ飛んでいく。
ブルワーの声:Teenage Brewingとのコラボレーションでは、事前のやり取りの段階から多くの刺激を受け、アイデアが行き交いました。Teenageは最近、私がカリフォルニアでBallast Pointで醸造した、カレーのスパイスを使ったエクスポートスタウト「Indra Kunindra」に着想を得て、グリーンカレーのビールを造ることにしました
Teenageの醸造チームと話す中で、彼らのビールの多くが料理からインスピレーションを得ていて、その料理を構成する食材を一つひとつ分解して、その食材がもつ風味をビールの中で再構築するようなアプローチを取っていることを知りました。そこで、今回のビールにもこの方向性を取り入れるのが面白いと思いました。私はメキシコ料理が大好きで、そこに使われるさまざまなスパイスや食材がももつ風味がさまざまで、食べるたびに発見する喜びがあります。中でも、北米に行くたびに楽しみにしているもののひとつが「チャモヤーダ」というスイーツ。その中でも特に「マンゴナーダ」。
マンゴナーダは、マンゴーを使ったスムージーに、フルーツシャーベット、チャモイソース、チリパウダーなどを合わせたメキシコでも人気のあるデザートです。甘さの中に、塩味やスパイスの風味が加わる、その組み合わせがとても素晴らしい。そこで、このドリンクの味わいを一度分解し、それぞれの要素を取り出して、サワーIPAとして再構築することにしました。
ベースとなるビールには、クリーミーな口当たりをしっかりと持たせるため、オーツクリームを使いました。ホップは、異なるシトラスやマンゴーの風味を引き出せるものを選び、さらにSabroを加えることで、その特徴的なクリーミーさもビールに重ねています。
フルーツスムージーをベースにしたビールなので、たっぷりのフルーツを使用しました。風味の核となるマンゴーピューレをブレンドし、さらにライム果汁を加えて酸味をつけています。
そして、けっこう挑戦になったのが、チャモイとタジンの風味をどう再現するかということでした。
チャモイは、フルーツをベースにした唐辛子ソースで、独特の風味を持っています。そこで私は、アプリコット果汁、こぶみかんの葉、海塩、チリペッパー、グアヒージョペッパーを組み合わせ、その複雑な味わいを再構築しました。ビールには唐辛子が入っていますが、辛いビールにすることが目的ではありません。
狙っているのは、塩味やスパイスの風味によって甘さを引き立て、味わいにコントラストを生み出すこと。たとえば、スイカに少し塩を振ると、甘さがより際立つのと同じようなイメージです。
このビールは、甘く、酸っぱく、旨味があり、そこにほんの少しのスパイスが加わっています。そして、その複雑な味わいは、一口ごとに変化していきます。今回のレシピは、最近造ったビールの中でも特に複雑で難しく、そして冒険が含まれたもののひとつでした。それだけに、味わいという点では、これまで造ってきた中でも特に印象的なビールのひとつになりました。まさに、五感で楽しむ一杯。シンプルなビールもいいですが、たまには未体験の味わいの世界へ飛び込んでみるのも悪くないでしょう?